創作文章 獏の骨 

散文、詩、日常独白雑想

【短編小説】 拝啓 のどごし<生>様   ※暴力表現があります

 

 


「どうもこんばんはっ!何してるんですか?」

 

住宅街に隣接した公園にまるで演劇でもするような野太い声が響いた、話しかけたのはこれといって特徴の無い仕事帰り風の男だった、私服だったが元々衣服に関心が無いのか自己主張を避けているのか、ベージュのコートと黒っぽいスラックスが相手に影のような印象を与えた、若くも無いが年寄りでもない、禿げてもいなければ髪の造作に凝っているわけでもない、何の特徴も無い男は唐突に相手に話しかけたのだった、そのまま夕闇の中を笑いながら近寄った、一方話しかけられた男の方はジャージ姿で公園のベンチに腰掛けて缶ビールとコロッケの簡単な夕食…あるいは前菜を食べているらしい、ベンチの周りには彼が捨てたと思しきガムの包み紙が散乱している、ジャージ姿の男は口をもごもごさせながら突然の問いかけに驚いている、特徴の無い男は引き続き妙に人懐っこそうに、しかし実のところかなり高圧的に話し続けた、辺りには住宅街から立ち上る夕餉の香りがそれとなく春風に乗って漂っている、家路を急ぐ人々が影絵のように二人の傍を通り過ぎてゆく。

 

「いやあ驚かせてしまったようで申し訳ないですハハハ、あのうもしかして『のどごし<生>』さん…ですよね?そうですよね?ああやっぱりのどごし生飲んでるじゃないですかあ!今日ものどごし生ですか!ハハハちょっとうけますね、やっぱりのどごし生さんだあ!!これだけ毎日のどごし生飲まれてるっていうのが初恋の人をずっと好きみたいな一途な感じで好印象ですよ、のどごし生、そんな旨いかなあ僕にはよくわかんないですけど、僕はエビス派です、ん?やだなあ黙っちゃって、のどごし生さんはのどごし生派以外とは会話してくれないんですか?それにしても、あなた有名人ですよ!この辺でのどごし生さん知らない人っていないんじゃないかな?のどごし生さんって、ここ数年毎晩ここで晩酌されてますよね?僕も見てたから知ってますよー、毎日面白いなあと思ってずっと観察してました、拝啓のどごし<生>様!って手紙を書こうか迷ったくらい僕、のどごし生さんのこと見てましたよぉ昆虫観察みたいにねアハハ観察って失礼か!」

 

一見、人畜無害が服を着て歩いている風な無特徴の男は一人で喋って一人で笑っている、何が彼をそうさせるのかしばらく笑いが止まらない風でさえあった、のどごし<生>…とあるビールの名称そのままに呼ばれたジャージ男の方は無特徴の男の笑い声に当てられたようにピタリと食べるのを止めて動きを止め、恐れるように相手を見つめたまま押し黙っている、コンビニで買ったコロッケ+ソースの小さい包み、そしてのキリンどごし生の缶が一種の傍観者の様相を呈して二人の間の緊張状態を見つめているようにも感じられた、まだ冬と言える時節の太陽はすっかり、高度成長期に群発した団地の峰々の向こうへと落ちてゆき音もなく電灯が灯った、にもかかわらず無特徴の男はその光を上から浴びる形で、逆光により一層影のように真っ暗になった顔面をジャージ男に向けている、無特徴の男は話し続けた。

 

「前ここに『ストロング』さんって居たの、知ってます?」

 

のどごし生と呼ばれたジャージ男はまたもや打たれたようにびくっとして、返答しない限り凝視しつづける無特徴の男に気圧されたのかついに折れたらしく数秒後に思いっきり首を振った、それを見届けて少し満足したように無特徴の男はにやりとした、口元だけの微笑みを何故自分が感知出来たのかを訝しがる隙さえもジャージ男に与えないというように、無特徴の男は『のどごし<生>』に向かってまた口を開いた、公園には彼ら以外誰も居ない。

 

「そっかあ『のどごし<生>』さんは『ストロング』さん知らないかあー!もし知ってたら地域有名人コラボ動画作れたのになあー、残念!彼最近来ないですよねえ、あ、知らないのか!アハハ!僕はね『ストロング』さんの事は正直あんまり好きじゃないんですよー、彼真夜中に来てストロング缶飲んでハイになって読経し出すクソ野郎だからね!あのアル中うざかったわハハハ!あ!のどごし生さん今ちょっと笑ってくれましたね?僕の話にうけてくれたんですね?嬉しいなあ~僕のどごし生さんのある意味ファンだからなあ、ストロングさんのことは殺害しようと思ってましたよ普通に、僕アル中嫌いなんですよ近所に居られるだけで嫌なんですフフフ、もっかい言いますがあいつ見つけたらぶっ殺そうと思ってるんです、え?可哀そう?アル中とか世の中の毒じゃないですかあ、お酒を楽しく飲めない奴は死んでほしいんですよお、だからストロング缶出してるサントリーのクソは死ねばいいですよ全員、サントリーは所詮焼酎屋に過ぎないんです酒を駄目にしてます、神聖な酒を駄目にしてます、ってことでサントリーは死ね!!サントリーは死ね!!!ね?そうじゃありません?のどごし生さんっ!のどごし<生>のあの鍵括弧、山括弧?くの字括弧?アングルクォーテーションマーク??生を挟んでて強調してるとこがウケますよねー!カクカクしてて、さっすがキリン意味不明な所を可愛く仕上げてくれますよね、よっ!キリンっ!のどごしっ!なまっ!!」

 

電灯に照らされた『のどごし<生>』…もといジャージ男は寒さも相まって今や蒼白になっている、ようやく自分が頭のおかしい男に絡まれていると気付いたらしく狼狽えているが身体が硬直したようになって、いまだに口に含んだコロッケの断片を飲み込めずにいるらしく辛うじて咀嚼行為を続けている、それが精いっぱいの彼なりの状況に対しての反発心であるらしかった、その切実そうな様子に無特徴の男は吹き出した。

 

「のどごし!<生>!さん!そんな怯えないでくださいよおー!あっ、僕の事はエビスって呼んでくださいエビスって!ほら!言ってくださいよお?ん?…聞こえないぞお?さんはいっ!えっびっすっ!!!ほれもう一回えっ!びっ!すっ!吐き捨てる感じでもかまいませんよおー、ま、礼儀知らずは殴りますけどもアハハ!」

 

「………え…びす…さん…」

 

「ああまだ口の中のやつ、もぐもぐしてたのねのどごし生さん咀嚼が遅いなあー、お子ちゃまみたいでちゅね!!いいよそれ飲み込んじゃってからで、僕はね誰に対しても優しくするっていう修行をしてるんです、ストロングみたいなアル中屑やサントリー社畜共には無理ですけどね!まあ出会ってないから結果的には優しくできてるかな?いきなり私事なんだけれども僕ね、誰からもいい人って呼ばれちゃうんですよー!そういう認識をされちゃうんです、ね?これってやるせないことなんですよーわかりますか?わっかるかなあ、僕、本当にいい人なんですよお、それにしてものどごし生さんはどうしてここで毎晩コロッケと安酒飲み食いしてるんですか?晩飯は家で用意されてる系ですか?いいなあ~、でも失礼ながら奥さんいる風じゃないですよねえ?あ、動画撮りますね撮らせてくださいってかもう撮ってますけど!のどごし生さんYouTubeデビューじゃないっすか!祝YouTubeデビュー!!彼女います?あ、彼女欲しいっすか?僕が紹介してあげますよー不細工に限りますけど!アハハ!不細工限定!!当たり前じゃないすか世の中そんな甘くないですよ若くて細くて巨乳とか何馬鹿言ってんすか風俗でも行って貧相なガリガリ女から性病うつされて泣いてて下さい、でもまあ僕いい人なんでね、こんなところで毎晩コロッケ食ってるのどごし生さん放っておけないんで、仕方ないので年増の糞不細工デブとかならいいっすよ?職場のスピリチュアルデブババア教えてあげますいっぱい数珠みたいなブレスレットをボンレスハムの糸みたく腕に縛りつけてるブスですよ、下着姿とか想像しただけで吐き気するけど射精は目を瞑ってれば出来ますって!よかったっすねーこれで性処理問題解決したじゃないっすか!祝素人童貞脱!アッハハ!素人童貞じゃないって?あのねえ口答えしていいって僕言いました?」

 

エビスと名乗る無特徴の男ははや周囲の暗闇と同化して完全に影のようになっていた、のどごし生と呼ばれた男は口をゆすぐつもりか無意識にのどごし生の缶ビールに手を伸ばした、無特徴の男は言葉通り携帯をのどごし生男に向けているが電源が入っているのかいないのかさえ判別がつかなかった、何らかの脅しなのかもしれない、そう考えたのかのどごし生はジャージの上着の中に両手を入れてますます縮こまっている、エビスと名乗る男は電灯の光を真後ろから受けながらいつのまにかあからさまな侮蔑を示し、先ほどとは打って変わって口の中で呟くように言葉を発した。

 

「…あんたのことずっと見ていたんですよ僕、ほらここ、このベンチのわきにこのラミネートされた紙が貼ってあるの、のどごし生さん気付いてるよね?あ、こっちのゼータガンダムのイラストの方じゃなくて、こっちのピーポ君の方ね、というか誰だよガンダムのイラスト貼り付けた奴、要所要所違ってんじゃねえか色が!Zガンダムなめてんじゃねえぞアハハ!全然リアルタイム世代じゃないけどガンダムはねえ僕好きだからねうん、のどごし生よりもガンダムの方が好きだねっ…て言ってもサッポロ以下だけど!僕北海道出身だからサッポロ贔屓なんすよ今の嘘だけど、はいっのどごし生さんは、首こっち向けてピーポの方を見てねっ」

 

エビスと名乗る無特徴の男の示した場所には【ここにゴミを捨てたものを見た人はただちに警察に連絡してください】と、むしろポイ捨て当事者よりも傍観者を咎めるような文体でゴミの投棄を咎める文言と警視庁のやる気のないキャラクターが意味ありげに記されていた、のどごし生はようやく事態を飲み込んだらしく缶ビールとコロッケを素早くコンビニ袋に入れようともがいたが、最早エビスが覆いかぶさるようにして彼を押さえつけていた、のどごし生は信じがたい腕力を感じて動けずにいた、そしてエビスは触れるか触れないかギリギリの至近距離、耳朶から数ミリというほどの所まで相手に口を近づけて笑いながら言った、それが大音声だったことに彼の押し殺した怒りが籠っており、いよいよ異様な雰囲気が公園一帯を包んだ、敢えてこの二人を避けるかのように人々は公園内には一切足を踏み入れなかった、もっとも当の二人にはお互いの肩ごしの景色しか見えてはいなかった。

 

「…のどごし生さん!僕はね本当にいい人なんですよー、のどごし生さんの捨ててくコロッケと缶ビール、毎日僕が拾ってたんっすよー!どうこれ?これさあ僕のどごし生さんから何か、ゴミ拾いのお礼をしてもらいたいなと思ってて、のどごし生さんを今日待ってたんっすよ!来てくれて本当にうれしいなあ、ある意味愛してますよお僕、のどごし生さんの事!愛してますよお何年もね!アハハキモいでしょ、僕ねえ気持ち悪い人なんです、誰かを怯えさせたくってたまらないんです、キモいでしょ?アハハ!でもいい人ってキャラで飯食ってるもんだから、ゴミ拾いもね、のどごし生さんどうせ誰にも注意されないから大丈夫~とか思い込んでたんでしょ?ポイ捨てを注意してくる奴なんか今時居るはずないって顔に書いてありますよおフフフ、みんな知らぬ存ぜぬだから何やってもいいって思ってるでしょ、あと、自分は男だから爺さん婆さんに注意されても無視を決め込むことが出来るっていうその、のどごし生さん特有の幼稚な考え及び行動をね、僕は毎日見てたんですよお、何でかって?だって僕この公園の目の前に住んでるんですから、意外ときっちりした生活してるんです嫁さんも子供も居てね、いいパパやってるんですパパって言葉すごいムカつくんで子供にもお父さんって呼べって躾けてるんすよパパとか馬鹿じゃないっすか?ママとか何なんすかね?子供の名前+ママとか呼び合ってるの聞くと引っ叩きたくなりますよお、でもセックスの事はパパママごっこって言って嫁さんと毎晩してますよおパパママごっこ、嫁さんに中だしすんの最高っすよ羨ましいですか?のどごし生さんもウチ来ます?パパママごっこにはそのジャージじゃ参加権無しですけど夕飯くらいなら招待しますよ?大体、それじゃ足りないでしょーコロッケまだ食べてもいないんですねえ冷めちゃいますよ?どうぞどうぞすぐそこなんでもうほらその、その家です!」

 

エビスは上体を逸らすとあごをしゃくって特定の場所を相手に知らせたが、公園の塀越しに数軒連なっているうちのどれが彼の言う自称自宅なのかはっきりしなかった、のどごし生はと言えば思いっきり首を振ってエビスの提案に抵抗した、そして絞り出すように言った「…すみませんでした…」しかしエビスは、耳元で怒鳴るのを止めただけでのどごし生の両腕を貧相なジャージ越しにがっしりと掴んだまま離さない。

 

「アハハやっぱ思った通りだ、そのびびってる顔!!!いいっすね、思った通りのどごし生さんって純情だなあー気に入りました!僕好みですよ僕ね、定期的に誰かを徹底的にいじめないと気が済まない性分なんすよ、これ誰にも言った事無いけどのどごし生さんには話しちゃおうかなーフフフ、のどごし生さんも男だから、わかるでしょ、怯えた人見るのって面白いよねえ?ねえ?僕ねえ以前は女の子メインにいろいろやってたんですよお証拠なんか無いですよ、大人しそうな人ならなんでもよかったんです、彼女らが泣くのを見るのがたまんないんです、でもね、やっぱ僕サイコパス野郎とかじゃないんで、罪悪感が残るんですよ、あと泣かれるともう駄目、ボッコボコにしないと終われないんです、終わり、終われないんですよ射精っていうのとはちょっと違うのかな、でもねえ心が痛い、心がキューっとなって、かわいい野生動物いじめてるみたいな気分で可哀そうなんだけど楽しくって楽しくってもうね、アッハハ!でね、ある時思ったんすよ、これ別に女の子相手にやらなくったっていいんじゃない?って!閃きですよ天啓です、むしろ男相手にこのスポーツやればいいんじゃないか?しかも、後ろ暗いところのある男を苛め抜くのは別に世の中のルールに反しないんじゃないか?いやそれどころか人間社会的屑いじめは人類にとって願ったりかなったりなんじゃないのかなってね、試しに万引き常習犯、小児性愛者のオッサン、飲酒運転のアル中、今のところいいサンドバッグになってくれそうな奴等を片っ端からボコボコにしてます、予想通りまだ誰一人被害届出してないですよー!そしてあなたのどごし生さん!公園に毎日ゴミをポイ捨てしてゆくポイ捨て常習犯!ポイ捨てする奴くらいならそこいらじゅうに居るんですけどねえ、毎日毎日捨ててくってのが悪質なんで僕のいじめリストに追加されましたおめでとうございますパチパチ!いやあこれはもう、あれだね悪を正す正当な理由、十戒を授かったモーゼレベルで僕は自分の受けたビジョンに感銘を受けましたよ屑叩きをすればいい、しかも現実的にやっちゃっても通報されない!この狩りのためにふれあい街歩きするのが本当に楽しくて仕方が無いんです、この地点にたどり着くまで女の子たちにはかわいそうなことをしました、その反省の意味も込めて二馬力でやると決めましたよ、ああモーゼとか知らないかあのどごし生さん、のどごし生さんは何?仏教?おおまかにいえば仏教系?」

 

いきなりの宗教話にのどごし生は首を縦に振るか横に振るか思案しているようだった、エビスは謎の肺活量で圧倒的にまくし立てるがこれが妙に親近感の籠った話し方である故に、どんなに暴力的表現に話が移行しようとも傍目には全く親し気な男二人が公園で喋っているようにしか見受けられないのだった、しかしエビスの野太い声に何らかの恐れをなしているらしく誰も公園内を歩こうとはしなかった。

 

「僕は別に信仰があるわけじゃないけど、それでも人に優しくするように言われて育ったんでね、いい人なんすよこれでも、のどごし生さんどのへん住んでるんですか?ってもう知ってますけどね!あの家でしょ築30年くらいの、母親の居る、母親居るから公園で飯食ってんすか?母親に飯作ってもらってるんすよね?もしかして酒禁止されてます?だからここでアルコールと前菜を密かに楽しんでる感じですかね?アッハハそんな目で見ないでくださいよおお母さんにもこの前挨拶しましたよ?僕いい人なんでみんな信用してくれるんです、でも宗教にしろ社会的善にしろ一つだけ欠けてるものがあります、それはね暴力衝動を正しいことに利用する方法を誰も教えてくれなかったって事です…暴力衝動を抑えて抑えて抑えて僕という人間が出来上がったんです、あるいは周囲全体の皆さんの漠然とした【悪者を叩きのめしたい】っていう負のエネルギーが僕に降りたんです、だって現実的にはこのエネルギーどう発散したらいいのかだあーれも!教えてくれないじゃないですかあだから僕は、悪を倒せと教えたい!女の子を泣かせてナニしてた時はね、正直僕を止めに入ってくれる別の野郎を探していたんだと思いますよ深層心理ではね、徹底的な殴り合いをしたかった、ボコボコにしあっている間に女の子にはさっさと逃げてほしかった、だけど僕が女の子に痴漢してもレイプしても泣いてる女の子を引っ掴んで道を歩いていても、それ、周りの人間気付いてると思うんですけど誰も!誰一人!!止めには入らなかった!!!触らぬ神に祟りなし!!!…この辺さあ、ちょっと向こうに雑木林あるでしょそうあそこにね、いくつか転がってますよ女の子の形した人肉テンガ、人肉テンガもう腐ってるだろうなー残念!のどごし生さん死体とか死骸大丈夫な人ですか?駄目?そっかあ死体になった女体には興味湧かないですよね僕もです、ああ僕女性の事を女の子って言うのが好きなのでこういう言い方してるだけでね、年とかはどうでもいいんです女の子さを感じさせてくれれば、中にはオバサンも居たなあフフフ、のどごし生さん、この話警察に言ってもいいっすよ?」

 

のどごし生は反射的に首を振った、そしてとにかく逃げ出す隙を伺ってチラチラと通りの方を振り返っていた、エビスは腕を敢えて緩めると見せかけて唐突にのどごし生の缶を踏み潰した、中に入っていた液体は夜の闇の中で何の色も見せずに泡立つ音だけを残してベンチの上にこぼれた。

 

「毎日毎日この缶見せられてすっかりキリン嫌いになりましたよサントリーのクソの次くらいに!!ああでも食べ物を無駄にしちゃいけません!さあほらまだ飲めるでしょ、ほらほら!のどごし生さん頑張って!!!ほら飲み干して!!!」

 

いつの間にか相手に馬乗りになってエビスはのどごし生にこぼれたビールの残りを飲ませるべく奮闘していた、それがよほど楽しいらしくコロッケも無理やりにのどごし生の口にフォアグラ用鴨の餌付けの如く詰め込んで爆笑していたが、やはりこれすら周囲の目には、誰も近寄りはしないものの酔っぱらって仲良くじゃれ合っている男同士にしか見えないのだった、エビスはすっかり興奮しきっていて息を弾ませている、らんらんと輝く瞳だけが闇の中で異様に輝いているのがのどごし生から辛うじて見えた、えずきながらもなんとか体制をもとに戻そうとするのどごし生は最早息も絶え絶えでの様相であった。

 

「ああーーーやっぱすっげえいいわ!スポーツってのはこうでなきゃ駄目ですよ、残酷な気持ちって現代社会でどう処理すればいいか長年悩んでたんすけどこうやってポイ捨てする奴や社会的屑を可愛がってればいいんだなあとようやくわかりましたよ、今度はストロングさん探さなきゃなーアハハ!何でそんな目で見るんすか僕、のどごし生さんの事殴りましたか?一発でも殴りましたか?蹴りましたか?ね?僕何もしてないでしょポイ捨てを注意しただけです、それに男同士、何か思うところがあるんなら正々堂々言ってくださいよお、え?警察に行く?いいですよお長年ポイ捨てしてたって事でそれだけで普通に逮捕されますよ法律知ってます?知らないでしょ?これだからポイ捨てする奴は!いいでしょう逮捕されに行きましょう出頭しましょう、僕?アハハハハハ本当にのどごし生さん純情だなあ!さっきの話を本当の事だと思ってるんですか?いいですよ雑木林を好きなだけ捜索すればいいですここ都内ですよ?そんなとこに死体がゴロゴロ転がってるわけないじゃないっすかあ!ゴミならともかく死体なんて!僕はね、言うなれば愉快犯なんですよ、地域の代弁者なんですよ!!単なる一時的な役者に過ぎないんです、ここだけの話、女の子レイプしたことなんて生涯ゼロですよ誰がそんな残酷な事やるんですかっ、女の子ボコボコにするとか僕無理ですよそういうのじゃ勃起しないタイプなんで、のどごし生さんそういうのが好きなの?だとしたらますます出頭ですよおもしかしてここいらに出没する露出狂ってのどごし生さんの事ですか?そうも見えないなあ~ああいうのはストロングさんみたいな、真夜中に読経するようなアル中の完全な精神的屑がやることですよ、僕、のどごし生さんの事信じてますから!!ほらっ握手!友情の握手!!」

 

のどごし生のジャージはコロッケとキリンのどごし<生>と土とで吐瀉物まみれのようになっており彼自身は茫然としていた、おそらく彼の生涯でこのように赤の他人から唐突に暴行を受けるという経験が無いせいだろう、一種の放心状態のままエビスと名乗る男に腕を取られ、互いに握手するように促されるがままに手を相手に委ねていた、力の差がそうさせたのか逃げる気力も先のもみ合いのせいで失ったらしかった、エビスはようやく興奮が鎮まってきたらしく少し低い声で続けた。

 

「あのね僕これで結構まともだと思うんですよ自分では、だって僕は自分の何が狂ってるのか自覚してますから、僕は定期的に誰かを肉体レベルで虐めないと気が済まない、これが僕の欠点です!!漠然とした欠点なら皆自覚してますがここまで自分の事を認識してる人って自分で言うのもなんですけど結構珍しいんですよ?僕の接してきた多くの人は自分の欠点、特に残酷さについてだけは目を瞑って見ないようにしてるんです、誰かを虐めたいから出来損ないの悪口言ったりして、あまつさえそれが正義みたいなふりをしているんです屑ばっかでしょ、ああそうだ、僕ちょっと面白い特質があるんですよフフフ、僕ねえ人見知りの真逆なんですよ人見知り現象が起きたことが無いんです、意味わかります?大体見ただけでその人がどういう人間かわかるんですよ、あれ?これが人見知りか?アハハ!!いやそうじゃなくて、それですぐに話しかけちゃえるんです、十中八九どころかほとんど外したことないですよ驚異の的中率です、これ競馬とかに応用しようかなと目論んでますよ、人見知りというか『人見知った』現象ですね!だからねえぶっちゃけ世の中馬鹿ばっかだなといつも思ってます、だって多くの人は多くの人の考えてることが分からないから疑心暗鬼で敵対心丸出しじゃないですかあ最早猿ですよね、国籍や外見だけで中身まで見抜けない馬鹿ばっか、これを思うとなんか、あのオウムの、麻原 彰晃は盲学校で自分だけ弱視レベルで視力があったから見えてて周りは本物の盲目だったっていう話!あれ、麻原の立場って自分みたいだなあと思うんですよ、ハハハ、なんでみんな他人の事が見えないのかなあっていつも不思議でしたよお陰で、すぐ話しかけることも出来るし、虐める相手もすぐに識別出来るしいい事尽くめですよ、まあいつもはね善い人なんでね僕、勿論こんな風にまくし立てたりしませんよ聴き手です、話しかけるきっかけは、全盲者の中で唯一に近い、目の見える僕が作ってやりますみんな他人の内面に対して盲目で全盲で赤ん坊みたいにアワアワしてますからねえ、でもって相手が自己開示しはじめたらすぐ聴き手になってやるんです、え?だからストレスが溜まってるのかって?のどごし生さん優しいなあー!僕を気遣ってくれて!違いますよお誰かをボコボコにしたいのは、残酷さは、根源的に内在してるものであってストレス値とは基本的に無関係ですよお、多くの人はこれを全くまったくまっったく!!認めたがりませんけどね!!!これを認めているだけ僕はまともですよ、僕は自分が基地外だって認めている分だけは、ほとんどの人よりもずっとまともですよ!」

 

エビスは影のようにのっぺらぼうにしか見えなかったがそれでもはっきりと微笑んでいるのをのどごし生は感じていた、のどごし生には見えていたのだ、相手が毛ほども自分の事を恐れていないことを、毛ほども自分の生死を気にしないであろうことも。

 

「フフフそれにしてものどごし生さん、付き合っていただきありがとうございます、いやあよかった…よかった、誰か弱い奴に犬食いさせるってのはいいものですねえ男のロマンですよ、今晩はとても良い経験をしました、お陰様で良い射精が出来そうですアハハ、男は射精が良ければそれでヨシじゃないですか!全然ノーマルですけども弱い奴を虐めると最高に精力が上がるんですよねえ自分でも不思議ですよ、さてと!僕は帰りますね、え?すぐそこの家?いえ全然違いますよ今日住宅機器販売でこっち来てただけで全然この辺知らないっすから、東京とは言えこんな田舎もあるんですねえ、いや褒めてます田舎は好きですよ、ゴミ拾い?ああ嘘ですよするわけないじゃないですかそんな暇ないですよ馬鹿じゃないですかアッハハ!のどごし生さんのことはさっきコンビニでお見掛けして、のどごし生買うのもちゃんと見てましたよお貧乏うつりそうなんで僕はのどごし生買うの止そう!ジャージもクソダサいからジョギングの時もそれなりのスポーツウェア着よう!っていうのが今日の教訓っすよやっぱビールはエビスですサッポロの出してるものが良いですよ最低限、アサヒはどうでもいいですスーパードライとか興味も無いです鈍感舌用の飲料ですね、ジャージ着て夜の公園でビールとコロッケ、アハハ!失礼ながら、ああこれキタ最底辺キターーと思って面白おかしく観察してたんです、しかもほら、ガムの包みも捨ててたしこれは現行犯で見ましたよ?それにそこに転がってますからねのどごし生缶、ほら、そこにも、のどごし生さんが捨ててるんでしょ?数本転がってます、きっとこの公園の傍に住んでる人に死ねって思われてるド底辺野郎なんだろうなあと思って僕、フラストレーション発散にのどごし生さんを使わせていただきました誠にご利用ありがとうございますプハハ!ああそういえばお母さんのくだりですごい動揺してましたけど僕の読みどおり母親と二人暮らしですかっ?だから食前酒を公園のベンチでやってるんですか?実は僕もそうなんですよ奇遇ですね嘘ですけど!え?嫁さんとパパママごっこ?何言ってんすかのどごし生さん変態ですか?パパママごっことかそんなキモい用語よく考えつきましたねえ僕今ドン引きしてますよドン引き、うわあほんと、嫌だなあ普通にセックスって言ってくださいよー…なぁんてね!冗談ですよ!やってみたいもんですねパパママごっこ、まあそんな興味ないんですけどねえレイプ同様自分の血を誰かが継ぐとしたら絶対そいつも僕の欠点を継ぐわけでしょう?僕が興味あるのは、完全に赤の他人になるってことですよお暴力の発散=社会的善の図式を生きている間に成り立たせたいんですよ、でも一つだけ本当なのは…どんな欠点があっても僕は根本的に善い人だってことです、僕はね、善人なんですよ、善人やってると定期的に悪人やりたくってたまらなくなりますよ、悪人やると射精力増すような気がしません?丹田のあたりにパワーが湧く気がしません?アハハのどごし生さん俯いちゃって!純情だなあ!それじゃあまた!のどごし生さん!あんまりポイ捨てしちゃだめですよ!」

 

こうしてエビスと名乗る悪霊じみた男…特徴の無い男は完全に影のように立ち去った、元々のどごし生と呼ばれたジャージ男以外に誰も居なかったかのように公園も周りの住宅街も静まり返っている…後日…身元不明の女性全裸腐乱死体が発見されたがエビスと名乗る男と関係があるのか否かはのどごし生はもとより警察をはじめ誰にもわからなかった、無論誰も警察に情報を提供したりはしなかった。

 

かくしてのどごし生、このジャージ男は公園をはじめどのベンチにも一切立ち寄らなくなり、癖になっていた長年のポイ捨て行為もピタリと止めたのであった。

 

 

 

 

 

 

※この物語はフィクションであり、実際の団体名企業名商品名とは一切無関係です、またそれに関する感情描写や差別的表現は作中に於いてのひとつの表現方法であり、著者は完全な下戸なので各種ビール(酒)についての描写は全て妄想ですご了承下さい。