創作文章 獏の骨 

散文、詩、日常独白雑想

【散文詩】舞台劇をやっている人々の絵が

 

 


舞台劇をやっている人々の絵が祖母の旧家の居間にかけてあってそのままにされているのを今、僕は降りしきる雪に囁かれて気が付いた、ああ…あの絵を最後に観たのはいつだっけ?山の中、白い世界に包まれてあの絵の中の人たちは思う存分練習出来るに違いない、誰が誰と言えないほどに血を分けたはずなのに糸は絡み合って、僕たちを余計に個別に個別にさせてゆく、それでも僕は今あの絵の目の前に立ってそれを眺めている…登場人物たちは舞台の上で舞い、いつしか小さな色とりどりの点になって点滅を始める、舞台も一つの記号になり、舞台が入っている建物も地図上の四角い図形になる、そこを縦横無尽に生命が轍を作って流れている…いつしか絵は抽象画に変わり、この抽象画は一つの地域に連綿と続く命と歴史の流れを映し出す、が、僕にはもうそれがわからない、時間の消失した世界の絵を僕は見ることが出来ない、僕の脳裏の目は絵を離れて一族の歴史を見るがそれは点と点との融合と消滅であり、山深い地域をかなり上空あるいは時空の向こうから俯瞰して眺めたら、あの白い山々が蛍光色で彩られていることに気が付いた、それが生き物の命と涙であることを僕ははじめて知った、世界は広がって行き、菌類の食い進む無造作な軌道のように最早血脈などあってないようなものだと感じられたその時、僕はついに僕という存在からはじき出される…時間の向こうから見つめた涙はこんなにも美しい、ああ、あの絵の中の人々は今もこれを伝えるためにこれからも演じ続けるのだ、とうの昔に亡くなった祖母の、幼いころに住んでいたあの屋敷のあの居間の額縁の内側では、過去もまだ生きて活動しているのだと、永劫の昔から降り続ける雪は音を吸って静かに囁いていた。