創作文章 獏の骨 

散文、詩、日常独白雑想

【散文】ブログの書き方がわからないの

 


女は僕を見つめつつ、杖を傍らに置いて実に昨今の人間らしい理由で目に涙を浮かべていた「ブログの書き方がわからないの…うああん、あたしがぁ、書けば書くほどお、人が減ってくのおお…テンガの事書いたのがまずかったよ、あれのおかげでガクンと人が減ったのお、別にあたしは」涙を流しながら女は僕に向かって話続けた「数字が全てみたいな人間ではないよお、けどさあ…書けば書くほど人、増えるどころか減るって、これ何の呪い?さすがにさあ、寂しいって感情を味わった、寂しい、というか、私一生懸命になるといつもそうだった気がするの、やればやるほどドン引きされるっていうか」女はぽろぽろと涙をこぼして訴えた「要するにぃ、これ全然あれだよ、空気読めてないってことなの!場違いなの!頑張りの方向があさっての方角なの、仕事とかでもそう、ミスしてた時の方がみんなの当たりがよかったとかあるじゃんか…文章も、初期のころのほうが受けがよかった…数字がそう物語ってる…そういうのあるよね?本気になるとクレーマー扱いされるみたいなさ、あるよねえ?…あたしが本当のことを言うたびにみんなの疑心暗鬼が広がるっていうか、嘘つくほうがみんなに信じられて本音を言うとみんなにドン引きされてくみたいで悲しいよお…」

 

泣いている無力な女を眼前に僕は唐突に助け舟を出したくなった、およそすべての男に内在する…か弱い女を目にしたときに発揮されるあの独特な本能が僕を駆け巡り、僕は意を決して口を開いた「…君の話ってちょっとわかりにくいんだよ!」これが男に根強くこびりついている反射的アドバイス能力だ、女受のたいそう悪いこの本能を止めることは生命が存続する限り不可能だ、僕は一種の絶対善に浸って女を見つめていた。

 

一瞬の静寂の後に女は飛び上がって僕を、名誉を傷つけた狼藉のかどで成敗いたすといった体で睨みつけたが僕はこれまた本能的な瞬発力で寸での所で彼女よりも素早く言葉を発した「いやあの、悪いってことじゃないよ!ただ、ブログっていうのはさ、普通、一人の人間が一つの視点で生活を綴っているものじゃない?君のはさ…散文とか小説とかあるけど、雑想とか全部あれ、主観的空想でしょ?現実の君が見えてこないっていうか…しかも、視点がコロコロ変わるでしょ?僕は君を見知っているからわかるけど、他の人は君がどういうテンションであれを書いているのかわからないんじゃないかな?全部空想だと思われていても仕方ないし、敢えて言うなら…一貫性が無い!かな」

 

「一貫性!」女は悔しそうに呻きながらも僕に向かって意見した「じゃあさキミはさ、朝から晩まで眠る時ですら夢の中ですら朝起きたその瞬間からずっとずっとずっと!…ずっと自分は、日本国籍を有した人間で、キミの場合は男だから、男…ずっとその視点で居るって本当に断言出来るの?」

 

僕は怯みつつ言い返した「…うーん、確かに、曖昧な時はあるよ、たまにね、でもその曖昧な視点から覗いた世界を本当のように表すのはなかなか難しいよ」僕は形勢を逆転させるべく女を立ててやろうと言った「君はいろんな視点からちゃんと表現出来ているからすごいよ」女は見事に僕の十八番である褒め殺しに満足げに打たれていたが気を取り直して言った「一貫性が無いっていうけど、詩や短編小説にはちゃんと、詩、短編小説って銘打ってあるよ、そうでないものは日常の主観的真実…現実に基づいた真実だよ、その差くらいわかるでしょ、白鷺の死体から首がぶらーんと垂れてそれが白ちゃんだとわかったみたいなのはどう考えても現実でしょ」僕は苦笑しながら言い返した「言いにくいけどそれも空想じみてるんだよね!」

 

女はぎょっとして僕を、白昼夢でも見るかのように凝視しながら言った「どう考えても現実でしょ!ゴミ拾いとか、自転車撤去とか、おまわりとか、どう考えても現実でしょ!白鷺の白ちゃんも現実でしょ、狸の死骸もあたしの空想だと思われる可能性があるってこと?」僕は頷きつつ言った「少なくとも僕はゴミ拾いしないし、動物の死骸に触りたいとか思わないから、『そういうことをしている登場人物の視点で描いた日常』っていうある種の…作品かなって思わせてしまう雰囲気はあるよ、白鷺の死骸とか普通の日常に落ちてないし」

 

続けて僕は言った「『君っていう人物』が書いている主観的真実、なんだよね?君にとっての文章っていうのは」女は言った「当たり前でしょ」僕はまた言った「君自身は人のブログとか読まないの?」女は即答した「読まない!あ、ホームレス支援とかをしている人のブログだけは読んでるよ、怒りとかわだかまりや諦めをきちんと書いている人のをね、現実に善行をやってく上での葛藤を素直に書いているからゴミ拾いの助けになるよ、いい事しか書いていない人のは読まないよ、普通のブログは…確かに読まないなあ…だって主観的視点が固定されててつまんないんだもん!それに本音は伏せてある場合が多々あるし」女の言わんとしていることが何か少しわかった、現実であれ空想であれ真実を書きたいという存外に崇高な気持ちがあるらしい、僕は彼女になるべく暖かい言葉をかけてやろうと思った「ただ…ブログっていうのは普通、日常の思いや感情が文章化されているものだから、その点ではちょっとだけ…ちょっとだけね、やっぱりわかりにくいかな」

 

僕は引き続き泣き止んだ女に語り掛けた「君の内部にはいろんな視点があるんだよね、それを書いているのが君だってことをもうちょっと出したら?プロフィール写真はなんで花の写真にしちゃったの?」女はまた悲しそうに言った「アイリスオオヤマを讃えようと思って庭のアイリスを…」これが彼女なりのギャグらしい、わかりにくい事この上ない、真意はなんだ?女は僕の視線に促されるように小さく言った「…身内にばれたらやだなって思って…ちんぽとかテンガとかの話を書いたりしたのがこのあたしだってわかったらなんか…ドン引きされるというか、あと宗教の話とか」自覚があるんじゃないか。

 

女は言葉とは裏腹に落ち着いて来た様子でぽつりと言った「仕方ないね、乳子と善吉のためにひと肌脱ぐしかない」またそうやって自作小説の登場人物と現実を混同している…僕は呆れかけたが創作を好む人の脳内というのはこのようなものだ、僕にも経験があるのでよくわかる、主観的真実に於いて現実であるか否かの境目は無い、嘘か本当かの境目は無い。

 

女はまた言った「『あたし』が書いているってわかれば、随時いろんな視点からでも意味がわかるよね?」ブログっていうものの概念が正確に何かは僕にも最早解らないがアイリスの写真よりかは生身の女の写真を掲げたほうがいいことくらいは判っているので僕は頷いた、女はこれを肯定と受け取ったのか笑顔で言った「いつもあたしの遠くはなれたところにもう一つ…いや無数のね、望遠鏡があるの、そこからあたし自身を見たらさあ…馬鹿だよねえこんな、ブログ書いて書きまくると閲覧者が減るとかで泣いているなんて、ばっかだよねえ、けどこれが…あたしなの、絵もそう、一生懸命やればやるほどドン引きされたりして、結局それが怖くて、怖くて…けどね、遠く離れた視点から見ると、これってかなり滑稽だよねえアハハ!」シニカル、という言葉を僕は考えながら言った「また写真撮るよ、いろんな写真を撮るよ」エロいのはだめだよ、それにあんまあざとい自撮りもいい歳して馬鹿っぽいからだめ、自然なヤツねと笑いながら彼女は(実際結構難しい)注文をつけた、ともあれ元気になったようで僕は静かに安堵した。