創作文章 獏の骨 

散文、詩、日常独白雑想

白鷺アオサギ不思議話

 


白鷺が川面に浮いて死んでいた。

 

向こう側の岸辺に近い場所にポリ袋が捨ててある…!と思ってゴミストーカーの本領発揮と半ば喜び勇んで橋を渡ってかのポリ袋に手を伸ばす…と、それは何だかふわふわしている、ジョギングおっさんが捨てたタオルか?まあタオルでもいいか拾ってやる、そう思って掬い上げたらぶらりと長いものが垂れ下がっている、それをよく見たら白い長い首と嘴、黒い足…白鷺の死骸だった、おいおいまた動物の死骸の話かよほんとに死体好きだなと思われるかもしれないし実際全く否定も出来ないので同じような話題で恐縮だが、今回はこの白鷺の死骸に関して不思議なことがあったので書いておく。

 

川辺の鳥とて死ぬときには大抵死に場所を探して陸地で死ぬものである、こんな風に川でおっ死んでいるのは珍しいことで、私はさっそくその白鷺を抱え、拾っていたゴミの入った袋も肩にひっかけて雑木林に向かった、白ちゃんごめんねポリ袋だと思っちゃって、すぐ土のところに行こうね、そんな感じに心のうちに呼びかけながら死骸を連れてゆく、そうしないと死骸に宿る魂が了承しないかもしれない感じがするので、死体とはいえど一応移動させることや触ることを…時間にして2~3秒のうちに断ってから埋葬場所へと急ぎ足で連れてゆく。

 

白鷺のことは普段白ちゃんと呼び交わしている…実際には交わしているわけではなくただ一人で勝手に白鷺をそう呼んで愛でているというだけで個体識別すらしていないがその鳥(たち)に愛着はあった、アオサギのことは灰色と呼んでいる、死者となった白ちゃんは水中でもずっと目を開けていたらしく私が掬い上げたときにも目をかっと見開いていた、外傷があるか否か(もしかすると釣り針とかのゴミをのどにつかえて死んだのではないかなど)検証したところ、首の根っこに噛まれた跡があり、血が滲んでいた、狸か何かに噛みつかれたのかもしれない、こないだ狸のたぬ助を埋めたばかりなのに…生き物の無常を感じながら、林の中の湧き水沿いの木のそばに白ちゃんを寝かせてさっそく墓掘りをした、素手というかラバー軍手でも結構掘れるしそんなに深く掘る必要もないのでさっさと済ませる、遺体のそばで土を掘っている時というのは何だか落ち着かない、白ちゃんもう少し待っててね、カラスがものすごい勢いで私を変質者認定して鳴きまくっている傍らで、さあ白ちゃんをいざ土という棺桶に納棺…という段階でかの白鷺を両手に抱くと、なんと見開いていた目を閉じているではないか…!!!

 

これが不思議その一である、寝かせておくと動物というのは赤ん坊人形のように目を閉じるものなのか?これには科学的な理由があるのかもしれないが、慣れ親しんだ川の水の中で白ちゃんは命を失う時に何を見ていたのだろうか?そしてもう見る必要のないのを川沿いの自然林に寝かされて悟ったのだろうか、不思議なことと言えば私は死体に出会う時、大抵その死体はそこまで腐敗していない、別の季節であっても死骸は昨晩か多くても一昨晩くらいしか経過していない、生き物どうしにはテレパシーがあると私は感じている、私も白ちゃんに呼ばれて来たのかもしれない、そんなことを感じながら目を閉じて安らかに眠っている白ちゃんに土をかけてゆく、最後に落ち葉と、湧き水をなんとなく振りかけておいた、心の中で若干の祈りをあげたら湧き水で手と杖を洗う、それから歩き出して雑木林を出、対岸に戻るべく元来た橋に行きかかったときにもう一つの不思議現象が起こった。

 

アオサギの灰色がやってきて、橋の欄干にとまったのである…!!などという事は案外日常茶飯事で、特にこのアオサギという鳥は人間に対してたまに謎の好奇心を見せてきたりする、その好奇心故に動物じみた気質の人間に追いかけ回されたりして憂い目に遭っているというのに懲りない愛すべきお馬鹿系の鳥である、けれどもその時の灰色はいつもと異なっていた、明らかに特定の人物に近寄ってきているのだ、つまり私ににじり寄ってきていた、ただ、私がいくら暇人だからといって日の暮れるまでこうして野鳥と見つめ合っているというわけにもいかないので私も橋を渡りきるべくゆっくりと進んでいった、ついに両者の距離が一メートルを切ったくらいになってから、灰色は魚じみた目で私を見つくした様子でひと鳴きして飛んでいった。

 

灰色は、あの鳥はたぶん昨晩には川辺に白鷺の死んでいたのを発見していただろうと思われる、それを人間に例えるならば道端で人が頓死しているみたいなもんで、関わりたくはないが知っているし自然死とは言えないので何が起こったのかを知りたい…そんな気持ちで灰色は周囲を観察していたのだろう、そして早朝、朝食がてらいつもの川辺に来てみたらあったはずの白ちゃんの遺体が消失している、ますます何が起こったのか知りたくなった灰色はその近辺でいつものゴミ拾い女である私を見つけ、事の次第を理解した…こんなところだろう、あるいは灰色からしたらなんらかの嗅覚で、同族である白鷺の死臭を纏っている私を野鳥の斥候として観察していたのかもしれない。

 

ただ私としては、水鳥が水辺で死なないことからも、彼等とて土のある場所に行って死を迎えると推察しているので、白ちゃんも土のある場所に横になれて安心したように見えた、それで目を瞑ったように見えた、死者の中にはまだ生者が残っていて、魂とも言うべき何かが死体の見張りをしている時があると私は思う、そのあとに私は立ち止まって木々の枝越しに空を見上げて何を思うでもなく空に白鷺の舞うのを描いていた…その時に生き物同士のテレパシー現象が生じ、私の意識を見た灰色が目の前に舞い降りてきたのだと感じた、彼が何を思っていたのかはわからないが明らかに私個人に何かを告げている風だった、勿論鳥なので大した感情は無いと思うがとても不思議な感じがして私と灰色は見つめ合っていた、人間社会とは全く無縁で、世の中の誰にも関与しない会話というものが確かに在る、子供じみているかもしれないがこのような時、生き物全てと心が通じ合ったような気持ちになる。

 

湧き水の流れる音はまだ、眠る白ちゃんに聴こえているだろうか、あるいはもう、安心して遠くへ飛んでいっただろうか…。