創作文章 獏の骨 

自作短編小説、散文、詩、日常独白雑想

【散文詩】アンパンマンとバイキンマン

 


俺は子供のころのことを妙によく覚えてるんだけど、幼稚園児のころからアンパンマンが嫌いでさ、それが始まると癇癪起こして泣いたもんだよ、俺なりに理由はあって、それは「アンパンマンバイキンマンにならないのはおかしい」ってことだった、え?意味がわからない?うーんと、善ってのは悪になりうるってことだよ、まあ当時はそんなことはうまく言えなかったわけだけれどもアンパンマンの行動が誰かに理不尽な被害を引き起こすこともあるってこと、単なる失敗談とかじゃなくてその都度アンパンマンバイキンマンはキャラクター変更しなきゃならなかったんだ、少なくとも俺の中ではそうだった、俺の中ではそれこそが善の最たるものだったって話だよ、だからしょっちゅう、怒りに駆られてテレビを消してたよ。

 

サンタクロースがやってくるってことについてもだいぶ憤りを感じてたよ、俺の欲しいものは幼稚園時代から「土地」だったからな、かわいくないガキだって?まあ否定はしない、なにせあのクソ狭いカビだらけの団地の部屋に帰るとさ、親父が仕事疲れでピリピリしてんだよ、俺がちょっとでも騒ごうもんなら雷が落ちる、周りのガキどもははしゃいだり子供特有のわけのわからないテンションで飛び跳ねたりしてる中俺は座して過ごすことの重要性をヒシヒシと感じていたんだ、別にこれは何にも役立たなかったもんだから俺はすぐに出来損ないになってったけどね、そんな出来損ないのクソガキであるところの俺が常に思い描いていたのは「あと10メートルでかい家」だった、家というか団地の部屋があと10メートルでかかったら俺も親父に殴られるその前に逃げたりとか、片づけたりとか…あとは親父の思う子供を演じられるまでのカウントダウンがあったと思うんだ、カウントダウンが無いもんだから親父にとっても俺の行動がいきなり不条理なことをしてくる子供みたいに見えてたんだな、そうだ、全ては狭い部屋が悪い、俺はそう思っていたのでサンタにそれを願った、俺は土地が欲しい、俺はあと10メートル四方でかい家が欲しい…でもさあすぐ思ったよ、俺の言う土地ってのはこの地球上のものだ、地球上の土地ってのは限りがある、俺が土地を欲しいと願って実際に土地を手に入れたとしたらその分、誰かは失うんだ。

 

失うってのは言い過ぎって本当に思うか?じゃあ他人の領域に入っていいと本当に思うか?他人の家や土地や他人の体の上にいきなり自分のやりたいように突進して行っていいって思うか?そりゃタブーってもんだ、他人の体の中に突進しちゃダメなのと同じようにどんなにやりたくてもやっちゃいけない禁忌ってもんがある、それが領域とか領土という感覚だ、突き詰めれば他人を侵さないってことだ、レイプはしちゃだめってことだ。

 

幼稚園児のころに保母さんに聞いたのを覚えてるよ、「俺が願ったらサンタは土地をくれるの?」この質問に対し、ヤンキーあがりの美人な保母さんはわりかし豪快に笑ってたな、俺は尚も聞いたよ「俺がいい子にしてたらサンタはアメリカくらいでかい土地を俺にくれたりする?」茶髪をひっつめ髪にした保母さんはきっぱりと言った「それじゃあそこに住んでる人がかわいそうじゃん、君が土地もらっちゃったらかわいそうじゃん」俺は言い返した「サンタは何でもくれるんじゃないの?」もちろんもうサンタの実在が立証不可能なことくらいは、この土地問題を考えなくったってわかってたんだよ、だってそうだろ、ほしいものってのは誰もがみんな手にしていたいもんなんだ、安全に生きる上で最低限の領域は誰だって確保してなきゃならないんだ、けど全員にそれを行き渡らせることは不可能なんだって俺だってわかってたよ、だから憤ってた、実在出来ない妖精かなんかを押し付けてくる大人ってやつに子供なりに憤ってたよ、ヤンキー保母さんは言った「みんなで住める場所をみんなでもらうって意味でなら世界中みんなのものだよ、よかったじゃん、もうもらってるよ」俺は怒り紛れに、しゃがんでる保母さんの胸に頭ごと擦り付けて駄々をこねた、子供ながらにスケベだったから内心この話に関する決着はまあ、これで勘弁してやるみたいなアホみたいなことを思ってたっけ。

 

いやこの話はさ、俺がエロガキだったって話じゃなくてつまりは、アンパンマンの話なわけよ、俺が仮にいいと思って金をしこたま稼いで大きな土地を買うとする、するとそこにはもう基本的には俺や俺の許可した人間しか入れなくなる、これはもう基本的にそうなんだ、いくら全員に土地への入場を許可したとしてもその中に俺を殺そうとする奴がいたら俺は立ち向かうし、土地を奪おうとする奴がいたら俺はやはり反撃する、果たして俺が確保した土地というものは善なるものなんだろうか?あるいは悪なのだろうか?


だからアンパンマンが善行を行う要領で突進してゆくのが、むしろ、他人の土地への進撃だった場合には彼らはバイキンマンなんだよ、逐一キャラクターは入れ替わらなきゃだめだ、俺は大人しく団地の部屋に戻ると父親が居るわけよ、俺が大人しいのは奴を見て怯えている時で、奴が大人しい日というのは嵐の前触れなんだ、親父は…多少疲れてても音楽をガンガンかけて、俺が居ることなんかまったく気にせずに古き良きAVを流しながら母親とセックスしててくれたほうがこちらとしても、存在を忘れてくれる分雷も落ちないから楽なんだ、なあ、これって今考えると隣の部屋の人とかにすごい迷惑なんだよな…親父の善というものが既に他人の領域を侵害してるんだ、大体、音楽を大音量でガンガンかけるとかAV垂れ流しながらセックスとか俺はすごく嫌なんだけど、なんでそんなことしていたのか血縁ながら意味不明だ、でも、俺にとってのバイキンマンであるところのあの癇癪親父が母親にとってのアンパンマンだったってんだから、全く、世の中うまくできてるなと子供ながらに感心したもんだよ。