創作文章 獏の骨 

散文、詩、日常独白雑想

【自作短編小説】

【短編小説】 聖女の嘘

活動修道会医療支部の発足を遡るとそれは骸骨崇拝時代と揶揄されるカタコンベ時代にまで行き着くと言う。この活動修道会は病人への奉仕…いわゆる現代で言うところの看護婦業を修道女たちが担っていた。看護婦と唯一違うのは彼女らがベールを被って常に祈って…

【短編小説】 悪人の花壇

琥珀と、極彩色の夢が見られる植物の原産地…そして十字架と骸骨が融合する小さな国、酸素の薄い高地の街の広場には、昼間っから酒を煽る男や、日がな一日骸骨の聖母に捧げる祈りを上げる住処を無くした哀れな老婆や、行くあてのない襤褸切れのような人たちが…

【短編小説】 浄瑠璃人形花鈴奇譚 ※江戸時代イメージ小説

それが浄瑠璃の娘人形であるということ以外、米屋の若旦那の脳裏には入ってこなかった。桟敷席から観る浄瑠璃人形はこの世の物とは思えないほどに白く内側から輝いていた…目が合った…若旦那は心のうちにそう呟き、身を乗り出しかかったが後ろにいた客に制さ…

【短編小説】 最後の森の人  ※縄文石器時代小説

焚火が森の人々を照らしている、夜は人の世界ではなくヌイの世界だ。盲目の声聞きの老婆は耳飾りと首の玉飾りに時折触れながら森を生きる同胞への叙事詩を語り聞かせていた。麻で編んだ服、肌には油を塗って寒さを防いでいるこの人々は石や弓を使って狩りを…

【短編小説】 登塔者の炎

人類の贖いが行われてから幾世紀か過ぎ去ったころ、氷の覆う石畳の街に一人の見習い修道士がやってきた。彼も祈りの生活に入るべく共同体の門を叩こうとしたがその時王宮の向こうの空から一筋の光が差すのが見えた。あの光の筋に寄り添うように祈りの生活を…

【ショートショート】 ガンジス川

コロナの起こる少し前でしたね、あんまり言いたくはないんですが…風俗をやってました。 その風俗店はいわゆるデリヘルなんですが、一点だけ普通と異なる所があって、それは障碍者っぽい人たちが働いていたって事なんです。『ぽい』っていうのが法の抜け穴と…

【短編小説】 拝啓 のどごし<生>様   ※暴力表現があります

「どうもこんばんはっ!何してるんですか?」 住宅街に隣接した公園にまるで演劇でもするような野太い声が響いた、話しかけたのはこれといって特徴の無い仕事帰り風の男だった、私服だったが元々衣服に関心が無いのか自己主張を避けているのか、ベージュのコ…

【短編小説】モグラ男   ※たのしい怪奇小説

人体が果たして土中に於いてどこまで耐え得るかを僕はともかくその男自身知らなかったみたいだ、大柄な体格にも似合わず彼の人生のはじめは暗いものでいつも学友から逃れて花壇の土をいじって遊んでいたという…転機が訪れたのは修学旅行中に誤って鍾乳洞へ落…

【短編小説】鬼子母神の涙    ※江戸時代イメージ小説

鬼子母神の涙は塩辛い、やや子をたらふく喰らっていたからやや子の分まで塩辛いそうじゃないそうじゃない鬼子母神の涙は糖蜜のように甘くて甘くて乳のように温かいやや子をたらふく喰らっていたから肥えているやや子をたらふく喰らっていたから飢えているや…

【短編小説】光る酒   ※江戸時代イメージ小説

酒が飲めないのが何より辛い…縄を木の幹にかけ、そこを簡易の足場にして樵の男はするすると上部へ上ってゆく…顔を出したところからは遠く富士山が見えたが山々に阻まれてその全貌の大部分は隠れているのだった、下から声がするが無視する、さらに急くような…

【短編小説】善之助奇譚 春の章 ※江戸時代イメージ小説

さる旗本の主が囲っていたのは伴天連の女であった…伴天連であることが次第が発覚したのは囲い者である彼女が帯を解いた時に偶然零れ落ちた不可思議な数珠だった、蝋燭の明かりに煌めいた女の顔は艶めかしく、たとえそれがキリシタンの妖術の作用であったにせ…

【短編小説】幻

今見ているものは幻だろうか…? 遠くに羊たちが散らばるのが見える…分厚い革のマントを羽織り、長の証たる杖をついた老人のラビとその一派の面々は太陽崇拝を表す丸い石の戸を廻し、洞窟に入る、「古の大ラビが死してもうだいぶ経つが…生まれ変わりは来ない…

【短編小説】木になった男

生命の定義というものが、外界との間に膜があって個体が保たれており、尚且つ循環機能を備えていて複製を作る事だというのならば…死の定義は何なのだろう? 男は生まれた時から粉を吹いているような子だった、両親は乾燥して皺だらけの老人めいた赤ん坊の有…

【短編小説】船幽霊 ※江戸時代イメージ小説

閑散とした浜辺、二人の漁師が船のたもとで話している、木造の船と褌に薄手羽織だけを纏った姿の男たちであった「船幽霊なんて生易しいもんじゃない、そいつは海から出てきて人を襲ったり女と寝たりするんだと」「ヘエ怖え怖え、でどんな化け物なんだ?正体…

【短編小説】副業

【from:ぱーかー 件名:返信不要】 身内から共食い被害者が出た、あの引きこもりの身内がババ引いて、当てつけにチクりやがった、俺は捕まる役どころだからこのアパートに居るがお前らはもう来るな、一番上の奴らは顔も見せずに傍観してるだけだ、ほとほり…

【短編小説】ほら吹きお銀 ※江戸時代イメージ小説

降し神様、おろし神様、どうかこの村を助けてください….。 「へェすみません、旅の方ですか?ヘェ江戸から、御山様参詣にいらしたんですか、このあたりには追剥が出ますからねえ…そうですねえ、え?いえいえとんでもない、私は村のもんです、ほうけ、ほおで…

【短編小説】乳子と善吉 ※おすすめ自作小説

「おっ!今日も居るねえ!若いのにゴミ拾いとは精が出るね!って言っても僕と同じくらいの年代かな?実は僕らもたまにもこのあたりを清掃して廻ってるんだよ、いえ全然職員とかではないよ~ゴミってのは最終的には海に行き着くからね、君の手に持ってるその…

【短編小説】無口な演者

巨大なクレーン車が何かの具合で十字架に見えた、青空に鉄の十字架が見えると子供は教室の窓から外を見て思っていた。 「おい!みんな何やってるんだ!仲間外れにして可哀そうだろ!!」教師の怒号が飛んで、それまで自然に友達同士で輪になっていた子供らは…

【短編小説】獄中聖歌

一人の若い修道士が今まさに牢獄に投げ入れられた、彼は牢番と一緒にやってきた老修道女にしきりに言った「教会の秘跡により天国に行けるということを否定しているのではありません!その天国を否定しているわけではないのです、ただ、その天国があるとすれ…

【短編小説】茶色い子熊のパディントン

茶色い子熊のぬいぐるみを、自殺者がするように首のところを紐で括って気に吊るして虐げている6歳の女の子が居た、彼女は涙と鼻水を垂らしながら必死でその子熊のぬいぐるみをつついたり、父親がよくやっているようにサンドバッグの要領で殴ったりしていた、…

【短編小説】高校時代の同級生

川辺でスケッチをしている女性が居た、その人が何だか妙に見覚えがあるので僕はちらちら見返りながら通り過ぎた、空は晴れ渡っている、冬は好きだ、その時にはっと思い出した、あの人は高校の時の同級生じゃないか?同じクラスだった子だ!ああええっと、何…

【短編小説】ダビデの鳥

白い長衣を着た男が簡素な祭壇の前に立っている、もみあげ付近の髪の毛は彼が種々の発明をする際に指で螺旋を描くように触れているためにそこだけカールして垂れ下がっていた、白い塔を中心に据えた巨大な立方体のドームの中には迷路のように地下都市が広が…

【短編小説】富士総合火力演習

「今年の富士総合火力演習、自衛隊のあのライブ配信、見た?」見てねえよ、小一時間前に合体してまだそのまどろみから解け切らないうちに、愛しい彼女からこんな質問をされて俺は戸惑った、で、ついうっかり「そういや昔無茶苦茶何も出来ない奴が居てさあ、…

短編小説 魔物になりかけた男 を書いたことについて

敵、という言葉を聞いてどう感じるだろうか? 敵という言葉は実は私にとっては非常に現実味を帯びた存在を指す、内面の憎悪や排他的感覚や反発ではない…私自身は内面のそういった一般的に言われる負の感覚をそれほど重要視していないので、人間の怨念だとか…

【短編小説】魔物になりかけた男 ※長いです ※トラウマ注意

イスカリオテのユダがそうであったように生贄の血を貪欲にたらふく飲んだ魔物は家の戸口で首を括って死んでいた、部屋の奥にはつるりとした十字架があり、それだけが彼の人生を見守っていた、おびただしい数の画像や動画やその他の証拠品はすべて除去される…

【短編小説】 元修道女のヴィア・ドロローサ(苦難の道)  ※長いです

「マリア様みたい」誓願を経て念願の観想修道会の青いベールをついに被ったとき、目鼻立ちの整ったその女の顔は確かに光り輝いていた、それやら約20年間密かに、聖母のようだと周囲から言われた言葉が修道女を支えていた、マリア様なんておこがましいと思…

【短編小説】森の神の系譜 ※長いです

森林地帯というのは法律の外側めいた雰囲気を持っていると、自称「声聴き」は思っていた、この国のかなりの面積を森林という人外の世界が埋め尽くしているのだ、何故人がこのような自由を見ずに憲法に縛られて動き、自分の魂の滅するのを茫然と見つめていら…

【散文詩/ショートストーリー】骸骨の街

骸骨の街の片隅に、今にも息絶えようとする女が自らを捨てて横たわっていた、微かな海の記憶が女に蘇っていた、初夏の匂い、青空に雲が高く渦を巻くように動いているのを見て歓喜の声をあげたことや、晴れた夜にこの海辺を、ドレスをはためかせてドライブし…

【散文詩/ショートストーリー】編集室

「何なんですかこれは!」 ジーンズ姿の青年は息を荒くして編集室に駆け込んできた、「おかしいですよね、こんな風に取材されてたなんて、何で僕の事をかわいそうな人扱いするんですか!」、一瞬室内は静まり返ったがまたにわかにいつものざわめきが蘇り、何…

【短編小説】魂の聖なる共食い

世界が終りかけるというやむを得ない事情があって、男は職を変えた、もともとは料理人だった、多くの人間がウイルス珍事に振り回されたように彼もまた身の振り方を一時的に考えたのだ。 調理方法はレシピ通りにやればいい、味もレシピ通り、そう聞いて男は病…